川村ケンスケ監督が明かす「Do you...?」制作秘話 「MVの原案と描き下ろし絵コンテ」特別大公開!Part 1
(With the permission from WPVR to repost Japanese translation)
(掲載記事の日本語訳ーWPVR様より転載の許諾済)
Ryuforstorm @stormloverusa for TeamARASHI
数々の大物アーティストのミュージックビデオや、コカ・コーラ、アサヒビール、ニコンといった大手企業CMを手掛け、過去にはⅤMAJやMⅤAなど日本の権威ある祭典や音楽賞でも受賞歴がある川村ケンスケ監督に、嵐のMVについてお話を伺いました。
— まず、お忙しい中ご返答頂きまして誠にありがとうございます。このような素晴らしいお話が聞けて、それを読者の皆さまと共有する機会に恵まれた事を、本当に嬉しく思います。
川村監督:どうしても短めにはならないので、ごめんなさい。物づくりの裏側とは、こんな感じなのです。
— 最初に短めの回答をお願いしたのは、インタビューの一部を切り取って編集するような事は避けたいとの思いからです。WPVR プラチナ・バイブス・ラジオ 番組ディレクターのケビン・ジェームズ氏のご好意により、今回はノーカット・無編集版を全文掲載することが出来ました。
WPVRの番組「プラチナ・バイブス・ワールドワイド」でダブルプレイとして毎日放送している、日本の人気アイドルグループ「嵐」の楽曲の中から2曲についてお話させていただきます。日本の嵐ファンリスナーにとって、一日の終わりにこのダブルプレイを聴くのが日課になっています。
Track #1: “Do you…?”
ー「Do you…?」のMVは、CDアルバム「This is 嵐」の初回限定盤にメイキング映像と共に特典映像として収められています。MV制作にまつわる裏話や撮影時のエピソードなどをお聞かせください。
川村監督:映像(と、プランニング的な)コンセプトは…
- EXPO ’70 (大阪万博 ‘70)
- The Beatles “Your Mother Should Know” (‘67)
- キャンディーズ「微笑みがえし」(‘78)
光や色彩は、当然ながら「デジタルでの撮影素材を、いかにアナログな温かみを持った映像に着地させるか」に留意して、設計。
まず「EXPO ’70」 に関して。これは、The Beatles の「Your Mother Should Know」 とも関わることでもありますが… ダンスしている場所・シーンは、元々は「EXPO ’70」日本大阪万博のモチーフを入れようとしていました。それはすなわち、60年代から70年代の(アメリカも、そして、それを模していた日本の)テレビショーが頻繁に用いていた「デザインモチーフ」でもありました。
簡単にいうと、グラフィカルなデザインセンスと、ちょっとした未来感、でしょうか。(嵐の拙作でいうと、それが極端に現れたのが「Face Down」でしたが)
最終的には、それらのデザインアイデアの片鱗といったものがわずかに残る仕上がりにはなりましたが。その理由は、キャンディーズの「微笑みがえし」という「モチーフ」が登場したからです。
—「微笑みがえし」は、70年代の三人組アイドル「キャンディーズ」が解散する前にレコーディングした最後の曲です。 「普通の女の子に戻りたい」は、当時爆発的な人気だったアイドルが発した、衝撃的な言葉でした。
川村監督:このキャンディーズの「微笑みがえし」は、それまでの彼女たちの代表的なヒット曲のタイトルや内容が、歌詞のところどころに出てくる、という「イキ」な楽曲でした。そのアイデアが昔からとても好きで…
すなわち「メタ/自己言及的視点」…自分たちに関わること、上位の視点から眺め、歌い、見せつつ、自らもその中に入り込んでいる、という… を、今回の「Do you…?」に当てはめよう、と決断。
そこで、嵐のこれまでの楽曲…そして、今回は映像作品なので、それらのMV…に出てくるアイテム・モチーフを、全てこの1曲の映像に入れ込む、というプランニングに方向を修正。
そのことで、当初の「EXPO的な、過去における未来感」というテイストがやや後退し、その代わり、テレビセットという考え方が強く残りました。そのアイデアに The Beatles の「Your Mother Should Know」 のMVの感覚を取り入れました。
ここにも理由があって、それは…
嵐の「自分たちをすこしからかったり面白がったりできるチカラ、余裕」と、The Beatles の「自己批評的、英国的シニカルな軽み」に共通する部分があるな、ということ。
結果、やや「EXPO」と、かなりの「Your Mother Should Know」感が、ダンスしているテレビショーという設定のデザインの根幹が出来上がりました。
と、こうして書くとかなりややこしいですが、いわばこの間、約半日の動きです。
— 最初のご返答をいただいた後、「ムダをやる:5人のためにしつらえた ‘’小さい白のホリゾント‘’」という監督から頂いたお言葉について、再度質問をさせて頂きました。かみ砕いて説明して頂き理解を深める事が出来たと思います。
川村監督:撮影スタジオには、いわゆる「白いバック=白いホリゾント」があります。それは、壁と床面が「直角ではなく、丸くなる形でつなげて」あって、照明を当てると「無限に空間が広がっているように」見える作りです。撮影で「白いバックの映像」を撮る際にはその「白ホリゾント」を使うことが多いです。
したがって、その「白ホリゾント」は通常「撮影スタジオに行けばそこにあるので」、わざわざ作らなくても良いのです。その「作らなくても、スタジオを借りればそこにある」ものをわざわざ作る、という行為を、「ムダなことをあえてやる」と、表現しました。
言い換えると…
「白い背景で撮影するなら、それがあるところに行けばいい」わけですが、その「白い背景を作った」ということが、「ムダ(?)」でありすなわち「贅沢」であり「一種の表現」になっている、というわけです。
しかもその白い背景を、5人それぞれに対してバラバラに作る、という。こういうことを美術や芸術という領域での専門的な言い方では「倒錯」している、などと言いますが(手段と目的が逆転して、それが新たな表現になっている、というようなニュアンスです)。
これは参考ですが、私が作った「CAN YOU CELEBRATE? feat.葉加瀬太郎」では、その白ホリゾントを、倉庫風の空間の中に「作りかけのかたち」でしつらえました。これは、上記の「倒錯」の極端な例です。これは、映像で見えているものの「外側」に、現実が広がっているのだ、ということも、表現したくて、そういう手法を取った例です。
蛇足ながら「若干の未来感」は…
セット内に鎮座している「THIS IS ARASHI」の「ネオン?サイン」の書体の選択に、強力に残しました。この書体は、あの「サンダーバード」を作ったイギリスの「21世紀プロダクション」が初めて手掛けたSFシリーズ「謎の円盤UFO(原題「UFO」)」のタイトルの書体です。このフューチャーな書体が大好きで、それはある意味ただの趣味として(笑)、デザインに使用しました。
— 「A・RA・SHI」の黒枠カラーパネルから「Love so sweet」の嵐メンバーが舌出しするシーンまで、過去のMV作品のオマージュを見つけるのも楽しかったです。
川村監督:「Do you...?」における「過去のMVのアイテムを入れ込む」というアイデア、完成した際にはそのことは「一言も言わずに公開」することも、アイデアの一つでした。
きっとファンの方が何か気付いて…「これってまさか?」ということで、曲全体に登場するいろんなアイテムを、何度も見て探し始めるだろうなあ、ということも、狙いの一つでした(あっという間に全部発見されましたが)。
ことほどさように、私のクリエイティブは「映像をリファレンスにする」のではなく「コンセプトや印象をリファレンスしていく」ということになっています。
なので、洋画のこれ、とか、あのMV、とか、の引用がまあまあ難しい…ですので、このような長文になったこと、ご容赦ください。
ー「Do you…?」のMVは、アルバム「This is 嵐」の初回限定盤にメイキング映像と共に特典映像として収められています(追記:2024年11月3日にYouTubeにて公開)。撮影時のエピソードをお聞かせください。
川村監督:コロナ真っ最中の撮影なので、それほど密な接触がなかったこともあり、メイキングの様子がその日の雰囲気をとってもよく捉えていると思います。 後日櫻井さんから「この作りは、ファンの人は本当に喜んでくれると思う!」と、言葉をいただきました。特に「SUNRISE日本」のミニフリスビーを使ったことが、 2曲目としてのこの曲があまり爆発しなかったということを、なんとなく払拭することになっている気がして、それもなんかよかったなぁ、とも言われました。
— ええ、もちろんファンは大喜びでした!それでは2曲目に行きましょう。
Track #2: “The Music Never Ends” へ
💬 インタビュー英文及び、絵コンテなどのイメージはこちらのページでご覧ください。⇩
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